効果的なサービス ブループリントの作り方
サービス ブループリントの作り方と例
新しい職場での初日を仮定してみます。会社の製品やサービスを求める顧客からのリクエストが届いた場合、スムーズに要求に応えることができるのが望ましい形です。しかし、必要なツールやプロセスを掘り下げていくと、現実が見えてきます。1 つのタスクを完了させるためには、数種類のシステムを使いこなし、各種部署と調整する必要があることが判明するのです。
いつの間にか日々の仕事は複雑で時間がかかるようになり、必要のない細かな作業で溢れてしまいます。サービス ブループリントは、このような状況に陥ったときに、前進する道筋を描く助けとなります。その目的は、仕事を進める上での見えない課題に光を当て、解決を支えることにあります。
その作り方とは?このままサービス ブループリントの詳細をお読みください。
サービス ブループリントとは?
サービス ブループリントは、会社のサービスプロセスを顧客がどのように見て、体験しているかを理解するのに役立つツールです。これは、特定のカスタマージャーニーに関連する関係者やプロセス、物理的およびデジタルなタッチポイントの関係性を視覚化した図です。
サービス ブループリントは宝探しの地図のようなものだと考えることができます。黄金のビジネスチャンスは、目の前に隠れているかもしれません。マップを作成して本当のニーズを解決し、重複作業や情報の分断を排除し、社員の仕事環境を向上させることで、事業目標を達成するための道筋が見えてきます。サービス ブループリントは、ビジネス環境において、さまざまな人やテクノロジーが連携する方法(場合によっては連携できていない理由)について、その多層性を明らかにするために設計されています。
では、どのような場合にサービス ブループリントを使用するのでしょうか?例えばホテルであれば、チェックイン工程のサービス体験全体をマッピングすることができます。
すべてのサービス ブループリントには、次の項目がマッピングされます
特定のカスタマージャーニーの段階的な工程
チャネルベースのタッチポイントをひとつずつ
さまざまな関係者やアクションについてのバックステージ プロセス
顧客のために製品やサービスを開発する複数の関連部門に共通理解が生まれれば、サービス ブループリントがその役割を果たしていることになります。
サービス ブループリントを作成する場面
サービス ブループリントは、チームが一緒に作成する便利なツールです。しかし、どのような場合に作るべきでしょうか?サービス ブループリントの最も一般的な使用例は次のとおりです。
多くの部門が 1 つの顧客サービス体験に関わる場合
自社の主要プロセスが利用者中心のものとなっているか確認したい場合
顧客体験を向上させるためにサービス改善が必要な場合
サービスの変更や再設計が必要な場合
ハイタッチからロータッチのサービスへ移行する場合(例:利用者数が少ない、新しい費用対効果の高いモデルを設計したい場合)
サービス ブループリントの利点
サービス ブループリントは、時間とコストのかかるプロセスですが、計画的に作成すれば、顧客との関係を一変させることができます。また、組織全体の関係者やチームをまとめる手段としても機能します。
「戦略的ツールであり、集団的共感ツール」
「これは戦略的なツールであり、集団的共感ツールです」と語るのは、ニューサウスウェールズ州政府の顧客サービス部門でサービス企画上級担当者を務めるキンバリー・リチャーズ氏です。リチャーズ氏はさらに「組織や使用技術のマッピングだけでなく、多くのことを行うことができるツール」とし「認識合わせや情報把握のためにも使っている」と加えています。
目の前のタスクに困難を感じても、サービス ブループリントを利用すると次のような重要な利点があります。
顧客重視の視点を持つことがいかに重要であるかを社員に再認識させます。自分の仕事を区切る考え方を、より大きなプロセスの一部(自分の仕事のやり方が周囲の人たちにどのような影響を与えるか)として捉える考え方につなげます。
継続的な改善の機会を確立します。マッピングを元にしたダイアグラムでは、プロセス改善の理由となる弱点や失敗を見つけることができます。
サービス設計の意思決定に役立ちます。従業員と顧客との間で共有される相互作用点を作成し、顧客が価値を見出すポイントを示します。
サービス設計について合理的なやり方を進めます。可視性ベースのマッピングにより、顧客が何を見るべきか、従業員が顧客とどのように接するかについて、常識的な決定を下すことができます。
各プロセスやタッチポイントへの会社の投資を評価するのに役立ちます。サービスが重複しているプロセスを確認することで、収益がどこからもたらされているかを把握し、効率化とコスト削減の方策を提案することができます。
社内外のマーケティング部門に根拠を提供します。外部の広告代理店や社内のマーケティング部門は、サービスマップを使用して、顧客に伝えるべき重要なメッセージを特定し、言葉を統一して一貫した顧客体験を提供することができます。
上司と現場の社員がより良いコミュニケーションを図り、顧客体験を向上させることができます。社員が自分の経験を伝え、上司がチャネル全体で改善の機会を見つけてサポートすることで、サービスの質の向上は共有の責任となります。
自分で作成する方法
サービス ブループリントには、さまざまな形や大きさがあります。ブループリントは、関係者間の共通理解のためのツールとして使うか、上層部の賛同を得るために使うかによって、簡単なスケッチであったり、非常に詳細で図解の多い視覚的な表現であったりします。
はじめに、テンプレートを使用してキャンバスを作成し、サービス ブループリントの重要な要素を把握しましょう。
サービス ブループリントの要素
サービス ブループリントを作成する際に必要なパズルのピースを 4 つご紹介します。
顧客のアクション:すでにカスタマージャーニー マップを作成していれば、顧客が目標に到達するまでのステップ、選択、アクティビティー、インタラクションを抽出することができます。
フロントステージでのアクション:これらのアクションは顧客の目の前で起こります。これは通常、人間同士(例えばレジで従業員とやりとりする顧客)または人間対コンピューター(例えば ATM で取引する顧客)のいずれかです。
バックステージでのアクション:フロントステージのアクティビティーを支えるバックでのアクティビティーで、裏方の従業員(厨房の料理長など)が担う場合と、フロントステージの従業員が顧客には見えない仕事(テーブルに向かう前に会計をプリントアウトするなど)をこなす場合があります。
サポートプロセス:これらは、顧客にサービスを提供する際に従業員をサポートする一連の手順やインタラクションです。
物的証拠:インタラクションが実際に起こったという証拠です。例えば、商品そのもの、購入証明となるレシート、実店舗、ウェブサイトなどです。
また、サービス ブループリントには 3 つの重要なラインがあります:
インタラクションのライン:顧客と会社の間の直接的なやり取り。
視認性のライン:顧客にとって見えるものと見えないものを分けるもので、見えるものはすべてラインより上にあり、バックステージのものはすべてラインより下にあります。
内部のインタラクションのライン:顧客と直接接触する従業員と、顧客と直接やり取りをしない従業員を分けます。
独自の背景や、ブループリントを作成している会社の事業目標によっては、次のような項目の追加も考えられます。
タイミング:時間ベースのサービスを提供している場合は、各アクションにかかる時間を記録しておく必要があります。
規約と規制:顧客体験を最適化する際に、変更可能なものと変更できないものを定める、主に法令による規定を指します。
感情:プロセスを通して従業員や顧客がどのように感じているかを理解することで、ペインポイントを特定することができます。
指標:合意を取り付けることが最終的な目標であれば、こうした指標が必要です。あらゆるデータを収集し、コミュニケーション ミスやその他の非効率な業務方法による時間とコストの浪費を視覚的に表します。
コラボレーションにより、共通の理解を得やすくなり、サービスプロセスがスムーズになります。異なる部門がお互いの責任や課題を知り、相手の成果にどのような影響を与えるかを確認することができます。サービス ブループリントを共同で作成すると、サービス提供部門は、サービス関連のロードマップのみならず、サービスプロセスに関与する各部門が合意したアクションプランを作成することができます。
サービス ブループリント作成のヒント
複雑な組織や、影響力あるグローバルな仕事のブループリントを作成する場合、キンバリー・リチャーズ氏は次のようなヒントを提示しています。
1.ブループリントの使い道と対象者を明確に
リチャーズ氏は次のように話しています。「誰も使わないようなものは作りたくないでしょう。チームがブループリントの作成に専念しているのは、社内の仕事をしやすくするためです。このマップを作った結果、無数のフォルダーや共有ドライブを探し回り、迷子になることもなくなります。ブループリントの目的は、できるだけ早く、簡単に仕事ができるようにすることです。」
世の中が変化する中、オフィスや会社でどのように仕事をしていくかを考えるとき、サービス ブループリントにより、現在と過去の違いを視覚化することができます。例えば、ほとんどのオフィスはコロナ禍を想定して設計されていません。そして、ほとんどの現場社員は、自分自身と顧客の安全を守るために、衛生・健康・安全基準の強化に関する過度の意識に順応していると思われます。
事業主のサービス ブループリント活用方法
例えば、オンライン注文の店舗受け取りや複数地域での週 1 回の宅配サービスなど、新しい方法で顧客にサービスを提供するために軸転換する場合、実際に必要なプロセスとアクションを迅速に把握します。
店舗再開に向けた段階的なアプローチ:初期フェーズの後、第 2、第 3、第 4 フェーズなど、規制の緩和や再導入に合わせて、各フェーズがどのようになるのかを想定します。
望まない結果を防ぐために、複数のシナリオを想定します。例えば、狭い空間では定員を減らす、開店時間には人の出入りを管理するなどです。
現場で働く人々のサービスブループリント活用方法
顧客の期待値と従業員の基準値を整合させます。例えば、顧客とのインタラクション毎に生じるテーブルの拭き掃除と消毒にかかる時間を測定します。
経営層のサービスブループリント活用方法
上層部の経営陣に向けて、事業運営と顧客体験の変化を可視化します。新しい安全対策や予防措置は、顧客体験の時間を全体的に長引かせるため、こうした新しい現実を組織全体で明らかにする必要があります。
2.簡易版を作り、大規模版への賛同を獲得
小さなものから始めて、社内でのブループリントの価値を実証しましょう。リチャーズ氏は次のように述べます。「ブループリントがどういうものかを理解してもらえれば、徐々に合意を得られるようになります。」
後でつなぎ合わせられるような、小規模な複数のブループリントを作成します。これにより、オンボーディングとオフボーディングのような、全く接点がなく、相互作用することのないプロセスがあることを特定できます。
2.共同でブループリントを作成する
ブループリントは共同で作るのが一番です。「私の役割では、一連の出来事について時系列でグループに質問することが多いのです」とリチャーズ氏は言います。顧客フローを理解し、社内の部門間の知識のずれを特定するためにも、グループは重要です。確認点は以下のとおりです。
技術から特定部門の責任者に至るまで、全社の部門から代表者を集め、各部門の業務について話してもらいます。
プロセスの各段階をあらゆるレベルで調査します。例えば、エンジニアにとってこのステップはどのように見えるのか?顧客サービス担当者には?役員にはどうか?
その場にいる全員に、「顧客に与える影響について、あなたの意見は?」と尋ねます。
全員一致で同意し、認識が合った場合に文書化します。
矛盾や誤解が生じた場合には、顧客の再ターゲットや再開拓、リサーチ、必要な情報を持っている社内の人間の再特定などを行います。
解決策ではなく、現状に焦点
サービス ブループリントは、何十年も先の未来のあるべき姿を想定することもできますが、それ以上に重要なのは、会社の現状を理解するためのツールであるということです。私たちは解決を優先して考えがちです。しかし実際は、現状を把握することが重要なのです。ブループリントは、すべての階層を網羅する、ある地点の組織の姿です。関係者の合意なしには前進できません。抜本的な変化を生み出すためには、認識を合わせる必要があります。
現実的には、顧客とのジャーニーは、全工程を終えるまで数十年以上続くことがあります。そのためリチャーズ氏は、ブループリント プロジェクトを開始する際に、ブループリントの開始点と終了点を把握するためのスコーピングやワークショップの実施を推奨しています。
サービス ブループリントの例
サービス ブループリントの仕組みがわかったところで、次は自分でブループリントを作ってみましょう。サービス ブループリントは、レストランやホテル、銀行、病院など、あらゆるサービス業に応用できます。簡単な例をいくつかご紹介します。
1.飲食店のサービス ブループリント
飲食店では、持ち帰りと店内飲食でプロセスが異なります。いずれにせよ、一貫性のあるスムーズな体験が利用者にとって重要です。
2.銀行のサービス ブループリント
金融業界では、インターネット バンキングのアプリや電話など、顧客は非物理的なタッチポイントを通じて金融サービス提供者とやり取りする機会が増えています。
3.病院のサービス ブループリント
病院の利用者は、高水準でストレスや不安を経験している可能性があります。つまり、利用者が遭遇するすべてのステップやプロセスは、サービスの操作性やわかりやすさ、安心感に基づき設計されていなければなりません。
ぜひお試しください
さまざまな業界のサービス ブループリントの例を見ていただきましたが、今度はご自身でブループリントを作成してみてください。無料のサービス ブループリント用テンプレートを使用する、または Miro のチームが作成したテンプレート 2 件もご覧いただけます。
リモートでのコラボレーションについてもっと知りたい場合は、まずはガイドの第 1 章からご覧ください。
ナタニア・ギルソン、寄稿ライター
ナタニア・ギルソンはメルボルン在住のライター兼編集者。インタラクティブなストーリーテリング、利用者の考え方やインタラクションの仕方を改善する製品の構築、社会貢献や社会啓発のためのツール開発が関心分野です。